オフィス移転は、企業にとって大きな節目であると同時に、総務部門にとっては膨大なタスクを伴う一大プロジェクトです。移転決定の瞬間から、総務担当者は「何を、いつまでに、どのように」進めるべきか、多岐にわたる調整と実務に追われることになります。
この記事では、オフィス移転のプロジェクト担当者に向けて、失敗しないための「実務マニュアル」を提供します。
移転6ヶ月~1年前から完了後までの詳細なスケジュールと「やることリスト」、煩雑な「官公庁への手続き」、見落としがちな「コスト管理」や「社内調整」のポイントまで、総務が押さえるべき全フェーズを網羅的に解説します。
※ただし、本記事で示すスケジュール(6ヶ月前など)は一般的な目安です。
実際には、企業の規模、移転先のオフィスの状況、内装工事の範囲などによって、必要な準備期間は変動しますのでご注意ください。
【計画・準備フェーズ】(6ヶ月~1年前)全体の流れとタスクの把握
移転プロジェクトは、初動の「計画」で成否の8割が決まると言っても過言ではありません。総務担当者は、まず全体像を把握し、プロジェクトを軌道に乗せる必要があります。
プロジェクトチームの組成と目的の明確化
移転が決定したら、まず経営層、情報システム部門、人事部門など、関連部署を巻き込んだ「移転プロジェクトチーム」を組成します。
その上で、今回の移転の「目的」を明確に定義することが重要です。
目的の例
- 事業拡大に伴う増床
- コスト削減のための縮小移転
- 働き方改革の推進(フリーアドレス導入など)
- 採用力強化のためのブランディング
この目的が、後の物件選定やレイアウト設計の「軸」となります。
全体スケジュールの策定とタスクの洗い出し
一般的な移転スケジュールと、各時期の総務の主なタスクは以下の通りです。
| 時期 |
総務(プロジェクトチーム)の主なタスク |
| 6~12ヶ月前 |
- 移転目的の明確化、プロジェクトチーム組成 ・現オフィスの契約内容確認(解約予告時期、原状回復の範囲)
- 移転先エリア、予算の決定 ・PM会社、コンサルティング会社の選定(必要な場合)
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| 4~5ヶ月前 |
- 移転先物件の選定、内覧、決定
- 新オフィスの賃貸借契約
- 現オフィスの解約予告(非常に重要)
- レイアウト設計、内装デザイン会社の選定・打ち合わせ
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| 2~3ヶ月前 |
- レイアウトプラン確定、内装工事の見積もり
- 引越し業者の選定
- 新規購入什器、リース機器の手配
- 官公庁への手続き準備(後述)
- 社内への第一次告知(移転日、新住所など)
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| 1ヶ月前 |
- 各種インフラ(電話、インターネット回線)の手配・移転工事申込み
- 社内説明会の開催、引越しマニュアルの配布
- 廃棄物のリストアップと処理業者手配
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| 1~2週間前 |
- 荷造り(パッキング)の開始
- 官公庁への届出(消防署、警察署など)
- 取引先への移転挨拶状の準備
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| 移転当日 |
- 引越し作業の立ち会い、指示
- 旧オフィスの原状回復工事の最終確認、鍵の返却
- 新オフィスでのインフラ開通確認(電話、ネット、電気)
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| 移転後 |
- 取引先への挨拶状の送付
- 官公庁への届出(法務局、税務署、労基署など)
- 社内トラブルシューティング(ネットが繋がらない、備品が足りない等)
- 移転費用の精算、経理処理
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【業者選定フェーズ】失敗しないパートナー選びのポイント
オフィス移転は、総務部門だけでは完遂できません。信頼できる外部パートナー(業者)の選定が、プロジェクトの質とコストを大きく左右します。
各業者の役割と選び方
プロジェクトマネジメント(PM)会社
- 役割:総務担当者に代わり、プロジェクト全体のスケジュール管理、コスト管理、業者間の調整など、煩雑な管理業務全般を代行します。大規模移転や、総務のリソースが不足している場合、導入を検討します。
- 選び方:実績の豊富さ、担当者のレスポンスの速さ、自社の企業文化との相性を見極めます。
内装・デザイン会社
- 役割:移転目的に沿ったオフィスのレイアウト設計、デザイン、内装工事を担当します。
- 選び方:デザイン性だけでなく、消防法や建築基準法などの法令遵守、機能性(動線設計など)も考慮した提案力があるかを確認します。
引越し業者
- 役割:什器や書類の運搬、荷造り・荷解きのサポートを行います。
- 選び方:オフィス移転の実績が豊富か(特に精密機器の取り扱いなど)、養生の丁寧さ、万が一の際の保険内容を確認します。
見積もりの比較とコスト管理
必ず3社程度の「相見積もり」を取得しましょう。
見積もりチェックポイント
- 作業範囲(どこからどこまで含まれているか)は明確か?
- 「一式」と記載されている項目はないか?(詳細な内訳を要求する)
- 原状回復工事費用、廃棄物処理費用など、必要な項目が漏れていないか?
【実務・手続きフェーズ】行政・インフラ手続き完全リスト
オフィス移転手続きの中で最も重要で、総務の専門性が問われるのが「手続き」業務です。特に官公庁への届出は期限が定められているため、抜け漏れなく対応する必要があります。
1.現オフィスの「原状回復」と「解約」
- 解約予告:賃貸借契約書をすぐに確認し、「解約予告期限(通常6ヶ月前)」を厳守して書面で通知します。
- 原状回復:契約書で定められた「原状回復の範囲」を確認します。オーナー側との交渉や、指定業者の有無も早めに確認し、工事の見積もりを取得します。
2.新オフィスの「インフラ」手配
- 電話・インターネット回線:移転当日から業務が開始できるよう、1~2ヶ月前から移転申込み(または新規契約)を行います。特にビルのMDF室(配線盤室)での工事が必要な場合、ビル管理会社との調整に時間がかかるため注意が必要です。
- 電気・水道・ガス:ビル側で一括管理されている場合が多いですが、個別に契約が必要な場合は手続きを行います。
3.官公庁への主要な届出チェックリスト
提出先ごとに必要な主な届出をリストアップします。(※提出期限や必要書類は、必ず管轄の役所にご確認ください)
| 提出先 |
主な届出書類名 |
提出時期(目安) |
備考 |
| 消防署 |
防火対象物使用開始届出書 |
使用開始の7日前まで |
レイアウト図面(避難経路、消火器設置場所等)が必須。内装工事前に図面協議が必要。 |
| 警察署 |
駐車場使用の場合の届出など |
移転後 |
社有車がある場合、車庫証明の変更手続きも必要。 |
| 法務局 |
本店移転登記申請書 |
移転後2週間以内 |
最重要。司法書士への依頼を推奨。 |
| 税務署 |
異動届出書(法人税) |
移転後、遅滞なく |
給与支払事務所等の開設・移転届出書も必要。 |
| 都道府県・市町村 |
異動届出書(法人事業税・住民税) |
移転後、遅滞なく |
|
| 労働基準監督署 |
労働保険名称・所在地等変更届 |
移転後10日以内 |
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| ハローワーク |
雇用保険事業主事業所各種変更届 |
移転後10日以内 |
|
| 年金事務所 |
健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地変更届 |
移転後5日以内 |
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| 郵便局 |
居届転 |
移転日の1~2週間前 |
旧住所宛の郵便物を1年間転送してくれます。 |
【コスト管理フェーズ】費用内訳とコスト削減の勘所
オフィス移転には多額の費用が発生します。総務担当者は、予算を正確に把握し、適切に管理・執行する責任を負います。
オフィス移転費用の主な内訳
- 旧オフィス関連費用: 原状回復工事費、廃棄物処理費
- 新オフィス関連費用: 賃貸借契約初期費用(敷金・礼金等)、内装工事費、インフラ工事費
- 引越し関連費用: 引越し作業費、什器運搬費
- 什器・備品費用: 新規購入費、リース費用
- その他: 挨拶状印刷・郵送費、各種届出の専門家(司法書士等)への依頼費
コスト削減のポイントと経理処理
コスト削減
- 既存什器のクリーニング・転用を検討する。
- 内装工事は「居抜き物件」を活用するか、過度な造作を避ける。
- 廃棄物は、リサイクル業者や買取業者を活用し、処分費用を抑える。
経理処理(勘定科目)
- 移転費用は、経理部門と連携し、適切に仕訳する必要があります。
-
例)
原状回復費 → 「修繕費」
引越し作業費 → 「支払手数料」または「雑費」
内装工事(間仕切り等) → 「建物附属設備」(資産計上)
新規什器 → 「器具備品」(資産計上)
※資産計上したものは減価償却の対象となります。必ず経理・税理士に確認してください。
【社内調整・実行フェーズ】従業員への通知と引越しマニュアル
総務の腕の見せ所が「社内調整」です。従業員の不安を取り除き、協力を得ることが、移転当日の混乱を防ぐ鍵となります。
社内通知のタイミングと内容
- 第一次告知(2~3ヶ月前):移転の決定、移転日、新住所、移転の目的を伝えます。
- 第二次告知(1ヶ月前~):社内説明会を開催し、具体的なスケジュール、荷造りルール、当日の動きなどを説明します。
「引越しマニュアル」の作成と配布
従業員が迷わず作業できるよう、実務的なマニュアルを作成・配布します。
マニュアル必須項目
- 移転スケジュール(いつまでに何をすべきか)
-
荷造り(パッキング)のルール
・私物、共有物、廃棄物の分別
・梱包方法(段ボールの組み方、詰め方)
・ラベリング方法(新オフィスの座席番号、内容物)
- 廃棄物処理のルール(機密文書の廃棄方法)
- 移転当日の服装、出社時間、各自の役割
- 移転後の新オフィスでのルール(座席、ロッカーの使用法など)
- 総務部門の緊急連絡先
【事後対応フェーズ】取引先への挨拶と残務処理
移転作業が終わっても、総務の仕事は終わりではありません。スムーズな業務再開と、対外的な信頼維持のための対応が残っています。
取引先への移転挨拶状
- 目的:移転の報告と、日頃の感謝を伝える。請求書送付先など、事務的な変更を正確に通知する。
- 送付タイミング
・メール:移転日の1週間前~前日に一斉送付。
・ハガキ・封書:移転後1週間以内に到着するように発送。
移転後の社内トラブル対応
移転直後は「ネットが繋がらない」「電話が鳴らない」「備品がどこにあるかわからない」といった細かなトラブルが発生しやすいです。総務部門と情報システム部門は、数日間はトラブルシューティングに専念できる体制を整えておきましょう。
オフィス移転に関するよくある質問
Q
オフィス移転は、最短で何ヶ月前から準備すれば間に合いますか?
A
企業の規模によりますが、最低でも6ヶ月前からの準備を強く推奨します。
特に「現オフィスの解約予告」が6ヶ月前規定であることが多く、これを起点にスケジュールを組む必要があります。レイアウト設計や内装工事、インフラ手配も考慮すると、6ヶ月でも非常にタイトなスケジュールになります。
Q
現オフィスの「原状回復」で、オーナーと揉めないためのコツはありますか?
A
2点あります。
- 入居時の契約書と写真の確認:まず契約書の「原状回復の範囲」を法務部門も交えて再確認します。また、入居時に撮影したオフィスの写真があれば、それが交渉の材料になります。
- 早めの協議:解約予告と同時に、オーナー(またはビル管理会社)と原状回復の範囲について協議を開始することです。見積もりを早めに取得し、工事業者を指定されている場合でも、適正価格かどうかの交渉(相見積もり)を行うことが重要です。
Q
従業員の荷造りがなかなか進みません。総務としてどう対応すべきですか?
A
「引越しマニュアル」の配布だけでなく、実務的な「デッドライン」を設けることが有効です。
- 「廃棄強化週間」の設定:移転2週間前などに「この日までに不要な書類・備品を捨ててください」と期限を切ります。
- 部門ごとの進捗確認:各部門の責任者(管理者)に進捗管理を依頼し、総務が定期的にチェックします。
- 荷造りの時間確保:業務時間内に「荷造りタイム」を設けるなど、会社として協力する姿勢を見せることも効果的です。
フリーアドレスのメリット・デメリットから導入前、導入後に必要なこと、社員が使いやすいレイアウトの作り方など、事例を交えながら解説しています。

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こんな方におすすめ
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まとめ
オフィス移転は、総務担当者にとって、プロジェクトマネジメント能力、交渉力、実務処理能力のすべてが試される一大業務です。
その業務は、移転先を探すといったものだけでなく、原状回復交渉、煩雑な官公庁への届出、廃棄物処理、社内の地道な調整など、多岐にわたります。
この膨大なタスクを成功させる鍵は、「早期の計画」と「網羅的なタスクの洗い出し」に尽きます。
本記事で紹介したスケジュールとチェックリストを活用し、移転プロジェクトの全体像を常に把握しながら、各フェーズの実務を一つひとつ着実にクリアしていってください。
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著者情報

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Nimwayメディア編集部
ワークスペース管理やデータ分析を可能にするスマートオフィスソリューション「Nimway」を提供するとともに、フリーアドレスやABWを導入する企業のオフィス環境構築を支援。これからオフィス環境の変革を検討したい企業様に向けて、その経験やノウハウを公開していきます。