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2025.9.12

【事例付き】
ABWとフリーアドレスの違いを徹底解説
導入前に知っておきたい進め方のポイント

近年、働き方の選択肢として「フリーアドレス」が広く知られていますが、その一方で「思ったより生産性が上がらない」、「席が固定化してしまう」といった声も聞かれます。
その課題を解決し、従業員の生産性を最大化する考え方として「ABW(Activity Based Working)」が注目されています。

この記事では、オフィス環境構築を支援してきた当社が「ABWとフリーアドレスの違い」を解説します。それぞれのメリット・デメリット、そして「自社にはどちらが向いているのか」を判断するための具体的なポイントまで詳しく解説いたします。

目次

ABWとフリーアドレスの違い

ABWとフリーアドレスの違いは、フリーアドレスが「オフィスにおける座席の利用ルール」であるのに対して、ABWは「働く時間や場所を自由に選べる働き方」です。
※ABWとは「Activity Based Working」の略で、「従業員の活動(Activity)に合わせて、時間と場所を最も効果的に選択する働き方」を指します。

端的に言えば、フリーアドレスが「場所(席)」の変革であるのに対し、ABWは「働き方そのもの」の戦略的な変革です。

比較項目 ABW (Activity Based Working) フリーアドレス
目的 生産性の最大化 省スペース化、コスト削減、コミュニケーション活性化
概念 働き方の戦略・思想 オフィス形態の一種(座席の運用ルール)
自由度 仕事内容に応じて「時間と場所」を自由に選べる オフィス内の「席」を自由に選べる
場所の選択肢 オフィス内外(集中ブース、カフェ、自宅など) オフィス内の自席、共有スペースなど
関係性 フリーアドレスを内包する上位概念 ABWを実現するための手段の一つ

このように、フリーアドレスはABWという大きな概念を実現するための、選択肢の一つに過ぎません。この関係性を理解することが、両者の違いを掴むための第一歩です。

ABWとフリーアドレスの定義

それでは、上記比較表の内容をさらに深く理解するために、それぞれの定義を詳しく見ていきましょう。

ABWが最終的に目指すゴールは、「従業員と組織の生産性の最大化」です。例えば、以下のような活動に応じて、最適な環境を従業員自身が自律的に選択します。

このように、ABWは単なるオフィスレイアウトの話ではなく、従業員の自律性を尊重し、最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を戦略的に提供する「ワークスタイル」です。

フリーアドレスとは?固定席を持たないオフィス形態

一方、フリーアドレスとは、オフィス内で従業員の固定席を設けず、空いている席を自由に選んで仕事をする座席の利用ルールを指します。

フリーアドレスを導入する主な目的

①オフィススペースの最適化

外出の多い営業部門などで、在席率に合わせて座席数を調整することでオフィススペースを最適化します。場合によっては、省スペース・コスト削減につながる可能性もあります。

②偶発的なコミュニケーションの創出

部署の垣根を越えて様々な人が隣り合うことで、新たなコミュニケーションやアイデアが生まれることが期待できます。しかし、「導入したものの、結局いつも同じ人が同じ席に座ってしまう」「部署単位で固まってしまい、コミュニケーションが活性化しない」といった課題が発生しやすいのも事実です。

これは、フリーアドレスが「座席の運用ルール」という側面が強く、働き方全体の変革までには至っていないケースが多いためです。

ABWとフリーアドレスの違いを5つの観点で比較

定義を理解したところで、改めて5つの具体的な観点から「ABWとフリーアドレスの違い」を深掘りしていきます。

目的の違い:「オフィススペースの最適化」 vs 「生産性向上」

フリーアドレスの第一目的が「オフィススペースの最適化」に置かれがちなのに対し、ABWはあくまで「生産性向上」が最終目的です。オフィススペースの最適化によるコスト削減は、結果として付いてくるものと捉えられています。

自由度の違い:「席を選ぶ自由」 vs 「時間と場所を選ぶ自由」

フリーアドレスの自由は「オフィス内で席を選ぶ」ことに限定されます。一方、ABWの自由はより広く、オフィス内はもちろん、自宅、カフェ、サテライトオフィスなど、その日の業務に最も適した「場所」と「時間」を選ぶ裁量まで従業員に与えられます。

働く場所の選択肢の違い:「オフィス内」 vs 「オフィス内外」

上記に伴い、提供すべき場所の選択肢も異なります。フリーアドレスが必要とするのは共有デスクや個人ロッカーが中心ですが、ABWでは多様な活動をサポートするための多機能なワークスペース群(集中ブース、会議室、フォンブース、リラックススペース等)が必要不可欠です。

必要な環境の違い:「共有デスク」 vs 「多様なワークスペース群」

ABWを実現するには、物理的なスペースだけでなく、どこでも同じように仕事ができるITインフラ(高性能Wi-Fi、クラウドストレージ、ノートPC、チャットツールなど)の整備が前提となります。フリーアドレスよりも高度な環境構築が求められます。

考え方の違い:「オフィス運用ルール」 vs 「経営・働き方戦略」

これが最も本質的な違いです。フリーアドレスは総務部などが主導する「オフィスの運用ルール」として導入されることが多いのに対し、ABWは経営層が主導し、人事戦略や事業戦略と連動した「経営・働き方戦略」として推進されるべきものです。

あなたの会社にはどちらが向いている?目的別・課題別診断

「違いは分かったけれど、結局うちの会社にはどちらが良いのだろう?」とお考えの方も多いのではないでしょうか?
以下の項目で、自社の目的や状況を確認してみてください。

フリーアドレスが向いている企業

ABWが向いている企業

導入で失敗しないために、成功に導く4つのステップ

ABWの導入は、単なるオフィス改修ではありません。働き方そのものを変えるプロジェクトです。成功のためには、以下の4つのステップを丁寧に進めることが重要です。

Step1:現状分析と目的の明確化

最も重要なステップです。「なぜ導入するのか?」という目的を経営層から現場の社員全員で共有しましょう。アンケート調査や行動観察などを通じて従業員の働き方の実態を調査し、「集中したい時に使える場所がない」「会議室が足りない」といった具体的な課題を洗い出します。

Step2:働き方に合わせた環境設計

洗い出した課題に基づき、必要なワークスペースの種類と数を設計します。同時に、ペーパーレス化の推進や、どこでも安全に働けるセキュリティを含めたITインフラの整備も進めます。

Step3:ルール策定とトライアル

「きれいに使う」「長時間占有しない」といった物理的なルールから、コミュニケーションのルールまでを定めます。いきなり全社展開するのではなく、一部の部署で試験的に導入(トライアル)し、問題点を洗い出して改善するプロセスが失敗のリスクを減らします。

Step4:本格導入と継続的な改善

トライアルで得たフィードバックをもとに、本格的な導入を展開していきます。しかし、導入して終わりではありません。定期的に利用状況を分析し、従業員の声を聞きながら、常に働きやすい環境へとアップデートしていく姿勢が求められます。

ABW・フリーアドレスの導入事例

コロナ禍を経て、働き方は大きく変化し、多くの企業でハイブリッドワークが定着しつつあります。働く場所や時間の多様性が求められる中で、オフィスは「出社させる」場所から「自ら出社したくなる」場所へと役割を変えつつあります。

当社ソニーネットワークコミュニケーションズでも、ABW実現のためのオフィス環境構築を実施しましたので、ご紹介いたします。

ABW導入の目的

ABW導入にあたっては、下記の3点が目的となるため「オフィス出社/テレワーク作業のハイブリッド型」のコミュニケーション活性化を重視したオフィスレイアウトを構築しました。

  1. 業務生産性の向上
  2. イノベーションの促進
  3. コミュニケーション活性化

テレワークに対応するためフリーアドレスを基本としたオフィス設計に

当社ではテレワークを前提としながらも、出社時に柔軟に働ける環境を整えるべく、フリーアドレスを基本としたオフィス設計を導入しました。

固定席を減らし、組織を超えて交流できる座席配置を採用することで、在宅勤務では得にくい偶発的なコミュニケーションやコラボレーションを促進しています。

また、必要に応じて集中できるブースやチームで集まれる会議スペースも併設することで、「テレワーク」と「オフィスワーク」を最適に組み合わせられる環境づくりを実現しています。

環境を整えた後に大切な2つのこと

ABWの実現に向けてオフィス環境を構築できたとしても、有効利用されなかったり、ルールが定着されないなど、様々な課題が出てくるケースも見受けられます。
そのような課題にも対応するためのポイントが下記の2つです。

  1. 使いやすい環境を整える
  2. オフィスを改善できる環境を作る

フリーアドレスやABWの仕組み自体は、導入しただけでは効果を発揮しません。大切なのは、社員が「使いやすい」と感じ、日常的に自然と利用し続けられる環境を整えられることです。

例えば、電源やWi-Fiの安定性、予約システムの使いやすさといった基本的なインフラ整備は、社員が快適に働く環境を提供するうえで欠かせない要素です。

また、導入後も定期的に社員の声を吸い上げ、レイアウト変更やルール改善につなげる「改善サイクル」を回すことが成功の鍵となります。

オフィスは完成した瞬間がゴールではなく、働き方の変化に合わせて進化し続けるものです。社員の実感に寄り添いながら環境をブラッシュアップしていくことで、ABWやフリーアドレスが本来持つ効果を最大限に引き出すことができます。
※下記のホワイトペーパーでABWの導入事例を更に詳しく解説しています。

ABW導入に関するよくある質問

Q ABWの導入に、どれくらいのコストがかかりますか?
A

一概には言えませんが、コストは主に「オフィス改修費」「家具購入費」「ITインフラ整備費」から構成されます。フリーアドレスよりも多様なスペースや高度なIT環境が必要になるため、初期投資は大きくなる傾向があります。

しかし、ABWは単なるコストではなく「生産性向上への投資」です。従業員のパフォーマンス向上、エンゲージメント向上による離職率の低下、採用競争力の強化など、長期的に見れば投資を上回るリターンが期待できるのが特徴です。

Q 部下の姿が見えないと、マネジメントや評価が難しくなりませんか?
A

はい、従来のマネジメントスタイルからの変革が求められます。部下の姿を常に目で追う「監視型」のマネジメントではなく、成果(アウトプット)で評価し、信頼に基づいて仕事を任せる「自律支援型」のマネジメントへの転換が必要です。

具体的な対策としては、定期的な1on1ミーティングで業務の進捗や課題を共有したり、チャットツールなどを活用して日々のコミュニケーションを密にしたりすることが非常に重要になります。

Q 結局、フリーアドレスだけ導入するのではダメなのでしょうか?
A

企業の「目的」によります。もし目的が「在席率の低い部署の省スペース化」や「他部署との偶発的な交流の創出」であれば、フリーアドレスの導入は有効な手段です。

しかし、もし目的が「従業員一人ひとりの生産性を上げたい」のであれば、フリーアドレスという手法だけでは不十分な可能性があります。その場合は、より戦略的な思想であるABWの視点から、働き方全体を設計し直すことを強くお勧めします。

Q 導入したら、社員の居場所がわからなくなって困るのでは?
A

席の予約システムや、オフィス内の状況を可視化するツールを導入しましょう。また、チームごとに集まるエリアをゆるやかに設けることで、自然なコミュニケーションが生まれ、居場所がわからなくなるという不安を軽減できます。

Q 紙の書類が多く、ペーパーレス化が進んでいないのですが、導入できますか?
A

まずは、導入を機に書類の電子化を徹底することが不可欠です。どうしても紙が必要な場合は、個人ロッカーや共有キャビネットを設置し、整理整頓のルールを明確に定めましょう。

Q 社員が固定席を好み導入が失敗するのではないか不安です。
A

導入の目的や、新しい働き方が社員にもたらすメリットを丁寧に説明することが重要です。社員の意見を取り入れながら進めることで、納得感を得られ、抵抗感を減らすことができます。

まとめ:自社の「目的」に立ち返り、最適な働き方を選択しよう

ここまで、「ABWとフリーアドレスの違い」について解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ります。

もし自社の課題が「オフィスコスト削減」や「偶発的な交流の促進」であれば、まずはフリーアドレスを導入することが有効です。

一方で、「社員一人ひとりのパフォーマンス向上」や「働き方そのものの変革」を目指すのであれば、ABWを戦略的に導入することをおすすめします。
大切なのは、形だけの導入で終わらせるのではなく、自社の目的を明確にしたうえで、最適な働き方を設計し運用し続けることです。

そうすることで、オフィスは「出社を強制する場所」から「働きやすく、出社したくなる場所」へと進化し、企業の成長を後押しする大きな力となります。

スマートオフィスソリューション「Nimway」は、部屋・座席、フロア、拠点など各スペースごとの実際の稼働率やピークタイムを把握し、導入効果の可視化や改善検討に活用できます。

オフィス改善やサービスに関するご相談・お悩みについては以下よりお気軽にお問い合わせください。

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著者情報

Nimwayメディア編集部

ワークスペース管理やデータ分析を可能にするスマートオフィスソリューション「Nimway」を提供するとともに、フリーアドレスやABWを導入する企業のオフィス環境構築を支援。これからオフィス環境の変革を検討したい企業様に向けて、その経験やノウハウを公開していきます。